まわれカロン

ぽにとも!

今更『味園ユニバース』


タイトルの通り今更『味園ユニバース』を観た。思ったことをぽつぽつと。ネタバレ有。





結論から言うと、好き嫌いが分かれそうな映画だと思ったけど、個人的にはすごく好きな作品だった。



演技の良し悪しを役者自身を感じさせないという点で決めるのならば、この作品におけるすばるくんの演技はあまり上手くないと思う。
なんというか、『渋谷すばる』というアイドルに『ポチ男』や『大森茂雄』を貼り付けただけのような印象だ。これにはっきりと気付いたのはホームレスから出所時に着ていた上着を剥ぎ取った後、嘔吐する場面だった。大体こういうときは背を向けてえずくだけ、という描写が多いと思うけど、この場面では普通に吐瀉物が見える。この時「アイドルがこういうことして大丈夫なんだろうか」という感想が過ぎった。ポチ男の奥にアイドルの渋谷すばるを見ていたのだ。

ただ、この作品においてはそれがとても上手く作用していたように思う。見え隠れする『アイドルの渋谷すばる』が、『味園ユニバース』という世界に放り込まれたポチ男という存在、大森茂雄という存在の異質さを加速させる。


カスミはそれまで『古い日記』の世界しかなかったポチ男の2本目の世界を『未来』とした。
そんなポチ男がマキちゃんからカスミの過去を聞き、亡くなった時から時間が止まったままのカスミのお父さんの部屋のまんなかで「俺と逆やなあ」とぽつりとつぶやくシーンが好きだ。

ポチ男は今までも、これからも、自らの過去を知ることはないのだろう。だって過去がないから。あるのは茂雄の過去で、それはポチ男の過去にはならないのだ。


主題歌のすばるくんが歌う「記憶」という曲の中にこんな歌詞がある。

ひとつ、ふたつ、と指で数える 悲しみや痛みの記憶並べて
すべて開いたその手のひらには 何故か微かな温もりが残った

記憶 - 渋谷すばる - 歌詞 : 歌ネットより引用)


わたしはこの部分をカスミの世界のことだと解釈しているけど、ポチ男は完全にカスミの5本目の世界になれたのだろうか。
最後に笑ったのは茂雄を捨てたポチ男なのか、茂雄を内包したままのポチ男なのか、はたまた改心した茂雄なのか。

それはきっと誰にもわからないままだけど、わからないからこそ『味園ユニバース』は面白いのだと思う。
赤犬と歌う男、カスミに下世話な質問を投げる男を殴った男、カスミがトマト嫌いだと知っていてハンバーガーを変えてあげた男、あのとき公園ではじめてカスミを名前で呼んだ男。
どれもポチ男かもしれないし、茂雄かもしれない。


カスミの手のひらはすべて開いたのだろうか。


最後に。
映画とは全然関係ないけど、すばるくんが劇中でハーモニカを吹いているのを見て、いつか井上陽水の『氷の世界』を歌ってほしいなあと思った。



味園ユニバース』、良い映画でした。